ノウハウ 契約レビューのAI向け「絶対NG集」の作り方|下請法・独禁法のコンプラインをAIに守らせる
投稿日:2026年06月9日
契約レビューのAI向け「絶対NG集」の作り方|下請法・独禁法のコンプラインをAIに守らせる
「許容範囲」と「最終ライン」は分ける
プレイブックは「どこまで譲歩してよいか」という許容範囲を扱います。しかし、その外側には「ここだけは絶対に越えてはいけない」という交渉余地ゼロの最終ラインがあります。これをプレイブックの中に混ぜると、AIも人も「譲歩可能な論点」と「絶対に譲れない論点」を混同します。
絶対NG集は、この最終ラインだけを独立させて持つための器です。多くは法令違反・コンプライアンス・会社の根幹方針に関わるもので、交渉で「もう少し」と言われても動かせてはいけません。本記事では、このNG集を、下請法・独禁法を例にとりながら、AIが守れる形でどう言語化するかを整理します。
(本記事は、AIに学ばせる「判断知」のピラー記事のクラスターで、「4つの器」のうち絶対NG集を深掘りします。なお、法令の具体的な要件・最新改正は、必ず一次資料と顧問弁護士で確認してください。)
絶対NG集とは何か
絶対NG集は、次の3つの性質を持ちます。
- 交渉余地がない:プレイブックの◎推奨と違い、「相手が拒めば譲る」対象ではない
- 理由が法令・方針にひもづく:「なんとなく嫌」ではなく、違反すると何が起きるかが明確
- 案件の立場で「発火」する:常にNGなのではなく、自社が特定の立場に立ったときに発動する
この3つを満たす項目だけをNG集に入れます。「とりあえず気になること」を全部入れると、プレイブックと区別がつかなくなり、AIがすべてを「人判断へエスカレ」に回してしまいます。
書き方:禁止文言+理由+発火条件
NG集は法令別にファイルを分け、各項目を「禁止文言・理由・発火条件」の3セットで書きます。
# 絶対NG(下請法)
## 下請代金の減額
- 禁止文言: 「発注後の一方的な単価引き下げ」「協賛金名目の控除」
- 理由: 下請代金の減額の禁止に該当しうる
- 発火条件: 自社が「親事業者」側(買主・発注者)の案件
## 受領拒否・返品
- 禁止文言: 「発注者の都合による受領拒否・返品を広く認める条項」
- 理由: 受領拒否・返品の禁止に該当しうる
- 発火条件: 同上(自社が発注者側)
ポイントは「理由」を必ず付けることです。理由があれば、人間レビュアーは「なぜこれがNGなのか」を即座に説明でき、交渉相手への説明や社内決裁でもそのまま使えます。理由のないNGは、足かせとなった背景が失われ、やがて「なぜだめだったけ」になります。
「発火」という考え方
絶対NG集の設計で最も見落とされやすいのが、「いつNGが発動するか」です。下請法・独禁法の多くは、自社が買主・発注者・委託者側に立ったときにだけ問題になります。受託側の案件では、同じ文言でもそのリスクは発動しません。
だからNG集には「発火条件」を明記し、レビュー時に案件の立場と連動させます。自社が買主となる購買・発注案件では下請法のNGをオンにし、受託案件ではオフにする。この連動をプロンプトやワークフローに組み込めば、「受託案件なのに下請法NGを誤検知する」といったノイズも防げます。
仕組みとしては、依頼フォームやCLMの案件属性で「自社の立場(買主/売主・発注/受注)」を最初に拾い、その値でNG集の適用範囲を切り替えます。業務委託の立場差による判断の反転は、生成AIで業務委託契約をレビューする手順とプロンプト集でも論点ごとに整理しています。
下請法・独禁法で「発火」しやすい代表類型
以下は、自社が発注者・買主側に立ったときに問題になりやすい代表的な類型です。(要件・適用範囲・最新の改正は、必ず公正取引委員会・e-Gov等の一次資料で確認してください。)
| 類型 | 問題になりやすい文言の例 |
|---|---|
| 代金の減額 | 発注後の一方的な値引き・協賛金の控除を広く認める文言 |
| 支払遅延 | 支払期日を「検収完了後」など曖昧にし、長期化させる文言 |
| 買いたたき | 通常の対価より著しく低い代金を一方的に定める文言 |
| 購入・利用強制 | 発注の条件として自社製品・サービスの購入を強いる文言 |
| 優越的地位の濫用(独禁法) | 取引上の地位を背景に、不当な不利益を一方的に課す文言全般 |
この表は「NG集を作るときの出発点」であって、これ自体が法的結論ではありません。実際の条項が該当するかは個別判断であり、法令の名称・要件は改正されることがあります。NG集には、文言そのものよりも**「なぜだめなのか」の考え方**を残すのがコツです。
AIに守らせる:NG該当は必ず人判断へ
絶対NG集の運用ルールはシンプルです。AIがNG該当を検出したら、その案件は自動承認させず、必ず人判断へエスカレーションさせます。NGは、AIが「要確認」で流してよい領域ではなく、人間判断が必須の領域だからです。
AIの出力には「NG該当:あり/なし」と「根拠(該当条項とNG集のどの項目か)」を必ず付帯させます。「NG該当あり」なら、その時点でレビューフローは一旦停止し、所管レビュアーまたは顧問の確認に回します。この「止める設計」が、自動化を進めてもコンプライアンスを崩さないための要です。
法令の「最新」は外部ソースで裏取りする
絶対NG集は法令にひもづくため、法改正の影響を受けます。しかし、法令の条文そのものをNG集にベタ書きするべきではありません。法令は「規範」であり、その本家は社外(e-Gov法令検索や所管官庁のガイドライン)にあるからです。
そこでNG集には「考え方と発火条件」を残し、最新の条文・適用閾値は外部API(法令検索サービス等)で都度参照する、という役割分担にします。こうしておけば、法改正のたびにNG集を書き換える手間が減り、「考え方は手元、最新の規範は外部」という切り分けが保てます。この考え方は、「どのAIを使うか」と「どのデータを参照するか」を分けるオープン型CLMの発想とも整合します(参考:すでにAIを使う法務がCLMに求める3条件)。
まとめ:最終ラインを「理由と発火」とともに残す
絶対NG集は、プレイブックの許容範囲とは分けて持つ、交渉余地ゼロの最終ライン集です。禁止文言+理由(根拠法令)+発火条件の3セットで、法令別に1か所に集める。NG該当は必ず人判断へエスカレさせ、法令の最新は外部ソースで裏取りする。
発火の考え方を入れておくと、同じNG集を、買主案件でも売主案件でも正しく使い分けられます。「AIは選び、契約は1箇所に集める」——その上で、守るべき最終ラインを手元のテキストで言語化しておくことが、AIレビューをコンプライアンスと両立させる鍵になります。
本記事はContractS株式会社のコンテンツマーケティングチームが、エンタープライズ企業の法務・調達・管理部門向けに執筆したものです。下請法・独禁法を含む法令の要件・適用範囲・最新の改正は、必ず公正取引委員会・e-Gov法令検索等の一次資料と顧問弁護士で確認してください。本記事はリーガルアドバイスではありません。






